一〇七四
 
     〔青ぞらのはてのはて〕
 
                  一九二七、六、一二、
 
 
 
   青ぞらのはてのはて
   水素さへあまりに稀薄な気圏の上に
   「わたくしは世界一切である
   世界は移らう青い夢の影である」
   などこのやうなことすらも
   あまりに重くて考へられぬ
    永久で透明な生物の群が棲む
 
 
 
     
〔青ぞらのはてのはて〕(下書稿(一))/『〔詩ノート〕』
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おねがいねって渡されているこの鍵をわたしは失くしてしまう気がする
 
 
ひやしんす 東直子
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そぼそぼと降る雨音のおだやかさ 愛した人の悪口を言う
 
 
ひやしんす 東直子
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靴下はさびしいかたち片方がなくなりそうなさびしいかたち
 
 
人形の笑窪 東直子
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鳩は首から海こぼしつつ歩みゆくみんな忘れてしまう眼をして
 
 
水の迷路 東直子
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自転車を押しつつ呪文のように言うやさしいひとがやさしいひとが
 
 
生け贄 東直子
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  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲は来るくる南の地平
そらのエレキを寄せてくる
鳥はなく啼く青木のほづえ
くもにやなぎのかくこどり
  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲がちぎれて日ざしが降れば
黄金の幻燈 草の青
気圏日本のひるまの底の
泥にならべるくさの列
  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲はくるくる日は銀の盤
エレキづくりのかはやなぎ
風が通ればさえ冴え鳴らし
馬もはねれば黒びかり
  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲がきれたかまた日がそそぐ
土のスープと草の列
黒くおどりはひるまの燈籠
泥のコロイドその底に
  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
りんと立て立て青い槍の葉
たれを刺そうの槍ぢゃなし
ひかりの底でいちにち日がな
泥にならべるくさの列
  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
雲がちぎれてまた夜があけて
そらは黄水晶ひでりあめ
風に霧ふくぶりきのやなぎ
くもにしらしらそのやなぎ   
(ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
りんと立て立て青い槍の葉
そらはエレキのしろい網
かげとひかりの六月の底
気圏日本の青野原
  (ゆれるゆれるやなぎはゆれる)
 
 
 
青い槍の葉
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あけがたになり
風のモナドがひしめき
東もけむりだしたので
月は崇巌なパンの木の実にかはり
その香気もまたよく凍らされて
はなやかに錫いろのそらにかゝれば
白い横雲の上には
ほろびた古い山彙の像が
ねづみいろしてねむたくうかび
ふたたび老いた北上川は
それみづからの青くかすんだ野原のなかで
支流を納めてわづかにひかり
そこにゆふべの盛岡が
アークライトの点綴や
また町なみの氷燈の列
ふく郁としてねむってゐる
滅びる最后の極楽鳥が
尾羽をひろげて息づくやうに
かうかうとしてねむってゐる
それこそここらの林や森や
野原の草をつぎつぎに食べ
代りに砂糖や米綿を出した
やさしい化性の鳥ではあるが
   しかも変らぬ一つの愛を
   わたしはそこに誓はうとする
やぶうぐいすがしきりに鳴き
のこりの雪があえかにひかる
 
 
 
有明
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起伏の雪は
あかるい桃の漿をそそがれ
青ぞらにとけのこる月は
やさしく天に咽喉を鳴らし
もいちど散亂のひかりを呑む
  (波羅僧羯諦 菩提 薩婆訶)
 
 
 
有明
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ユリア ペムペル わたくしの遠いともだちよ
わたくしはずゐぶんしばらくぶりで
きみたちの巨きなまつ白なすあしを見た
どんなにわたくしはきみたちの昔の足あとを
白堊系の頁岩の古い海岸にもとめただらう
 
 
  《あんまりひどい幻想だ》
 
 
わたくしはなにをびくびくしてゐるのだ
どうしてもどうしてもさびしくてたまらないときは
ひとはみんなきつと斯ういふことになる 
 

きみたちとけふあふことができたので
わたくしはこの巨きな旅のなかの一つづりから
血みどろになつて遁げなくてもいいのです
 
 

 

小岩井農場 パート九
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白い片岩類の小砂利に倒れ
波できれいにみがかれた
ひときれの貝殻を口に含み
わたくしはしばらくねむらうとおもふ
 
なぜならさっきあの熟した黒い實のついた
まっ青なこけももの上等の敷物と
おほきな赤いはまばらの花と
不思議な釣鐘草とのなかで
サガレンの朝の妖精にやった
透明なわたくしのエネルギーを
いまこれらの濤のおとや
しめったにほひのいい風や
雲のひかりから恢復しなければならないから
 
 
それにだいいちいまわたくしの心象は
つかれのためにすっかり青ざめて
眩い緑金にさへなってゐるのだ 
 
 
 
オホーツク挽歌
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「ああ、どうしてなんですか。ぼくはカムパネルラといっしょにまっすぐに行かうと云ったんです。」
 
 
「あゝ、さうだ。みんながさう考へる。けれどもいっしょに行けない。そしてみんながカムパネルラだ。おまへがあふどんなひとでもみんな何べんもおまへといっしょに苹果をたべたり汽車に乗ったりしたのだ。」
 
 
 

宮沢賢治『銀河鉄道の夜』 より 「ジョバンニの切符」第二次稿挿入部分

(別冊太陽No.50/平凡社 より引用)

(Source: mororipotopoto)

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「僕たちしっかりやろうねえ。」
 
 
宮沢賢治 銀河鉄道の夜
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しっかりやりませう。ーしっかりやりませう。ー
しっかりやりませう。ーしっかりやりませう。ー
しっかりやりませう。ーしっかりやりませう。ー
しっかりやりませう。ーしっかりやりませう。ー
しっかりやりませう。ーしっかりやりませう。ー
しっかりやりませう。ーしっかりやりませう。
しっかりやりませう。ーしっかりやりませう。
しっかりやりませうーしっかりやりませう
しっかりやりませうーしっかりやりませう しっかりやりませう
しっかりやりませうーしっかりやりませう
 
 
かなしみはちからに、欲りはいつくしみに、いかりは智慧に みちびかるべし。
 
 
 

書簡[165]
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「ベゴさん。今日は。今度新らしい法律が出てね、まるいものや、まるいやうなものは、みんな卵のやうに、パチンと割ってしまふさうだよ。お前さんも早く逃げたらどうだい。」
 
「ありがたう。僕は、まんまる大将のお日さんと一しょに、パチンと割られるよ。」
 
「アァハハハハ。アァハハハハハ。どうも馬鹿で手がつけられない。」
 
 
 
宮沢賢治 気のいい火山弾
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